境界性人格障害
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、身体的、精神的に極度のストレスにあったあとに、その苦痛が再体験され続けたり、そのストレスの原因となった出来事を避けたり、不安・不眠・易刺激性などの覚醒常態が1ヶ月以上持続した状態の精神疾患である。BPD(境界性人格障害)は、対人関係・自己評価・感情などが不安定で衝動的なことが特徴の人格障害である。そのBPDの成因として幼少期の心的外傷が重視されるようになったため、PTSDとBPDの共通点と相違点に関する研究が盛んになった。
これまでの研究で、BPDの患者のうち小児期に外傷体験のあるものは55~81%といわれ、BPD の3分の1はPTSDの診断基準を満たす。
PTSDとBPDに共通する症状は、1)感情の調節機能の障害(緊張・抑うつになりやすい)、2)衝動コントロールの障害(怒り易い・刺激されやすい)、3)現実的検討力の障害・対人関係の障害・自己アイデンティティー確立の障害などである。それに対しBPDは「状態の不安定さ」(自殺、そのそぶり、脅し、自傷行為、感情不安定、ストレスに関連した一過性の妄想様観念や重篤な解離性の症状など)また、両者とも外傷的な出来事を「再体験」することが特徴的だが、BPDではその再体験が、依存的かつマゾヒスティックな対人関係、慢性的な抑うつ、解離症状として現れることが多く、逆にこのような症状が再体験の際にみられるときはBPDがうたがわれる。
また両者は、過去からの病歴を聞くことである程度鑑別できる。典型的なPTSDは成人になってから、戦争・レイプなど第三者から見ても侵襲度の比較的大きな体験によって発症することが多く、発症前の対人関係や社会適応も良好である。対して典型的なBPDは他人に親切にされることに飢えており、古くから対人関係で失敗を繰り返し、環境が変わった時にもこれらが認められる。解離症状・妄想知覚・幻視など通常ではみられない異常知覚は、PTSDでは外傷体験に直接関連して起こるのに対し、BPDではより一過性で対人関係と関連して起こる。
PTSDのリスクファクターは、女性・幼児期の分離体験・家族に反社会的行動の既往歴などで、BPDは小児期の頻回の分離体験をしている者が多く、女性が75%を占め、一親等に反社会的行動をもつ者が多い。つまりBPDは、PTSDのリスクファクターにもなっている。BPDの患者のストレス対処法が未熟で現実のストレスが解決せず、いつPTSDになってもおかしくない状況にあるためである。
小児期・思春期は人格形成の途上にあり、個人の人格に与える影響は最も大きい。小児期には身体や精神への侵襲的な体験(陽性の外傷)だけではなく、親との死別・別離による養育欠損や養育放棄、家庭内の混乱など本来期待できる環境が整備されてない状態(陰性の外傷)も心的外傷として大きな影響をあたえる。小児期の心的外傷と関連が深い精神障害として、解離性障害(意識・記憶・同一性の機能の破綻)、自傷傾向などがある。BPDの多くは幼少期の虐待を体験しているが、他の疾患とも関連しているため、BPDの発生に関して虐待の影響は非特異的と考えられる。
災害後の被災者に対して、心的外傷が人格形成に与える影響を考慮しながら長期にわたるケアが必要と考えられる。
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